働くひとたちの撮影を通じて
「仕事の誇り」を表現する
LENS ASSOCIATES(以下 LENS)のフォトグラファー部門SSS(エススリー)。本コンテンツ「クロストーク」では、SSSを統括するカメラマン高坂が、各案件を担当してきたアートディレクターとともにこれまでの撮影について振り返ります。
第二回目の対談相手はアートディレクター原口、加えて、LENS代表の矢野をゲストに迎えてお届けします。
Member
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AD:原口 宗大
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SSS:高坂 浩司
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ゲスト:矢野 まさつぐ
今回は、仏具職人さんたちを紹介するパンフレット・ウェブサイトを制作した際の撮影について振り返っていきたいと思います。
LENSが事務所ビルを構える名古屋市中区橘には、仏壇関係の店舗が軒を連ねる「仏壇通り」と呼ばれている通りがすぐ近くにあります。デザイン関係の友人から「これからの橘エリアを考える協議会があるから矢野さんも参加してほしい」と声をかけられたのがきっかけで、近所の仏壇屋さん、仏具屋さんと仲よくなりました。
その会を通じて、各ジャンルの仏具職人を集めて幅広いプロジェクトを牽引している方に出会い、僕から「LENSが持っているスキルを、職人さんたちの地位向上に役立ててほしい」とプレゼンしたのがこのプロジェクトの始まり。職人の撮影は高坂さんの得意分野だから、プロジェクトがスタートする前から、彼に任せれば間違いないだろうという安心感がありました。
仏壇通りのお店は販売がメインなので職人さんの工房はあちこちに点在しているんですが、自宅の一角を工房にしている職人さんも多く、撮影環境としてはかなり難しい場所もあったと思います。撮影当日にお会いする職人さんたちがほとんどだったため、撮影現場で「ここを見せましょう」「こういうカットがほしい」と相談しながら撮影に臨みました。名古屋市内外に位置する12箇所の工房を3日間で回らなければならなかったので時間的な制約も大きかったものの、本当に高坂さんの臨機応変さに助けられた撮影だったと思います。
もちろんロケハンができればベストなんだけど、さまざまな理由でそれが叶わないプロジェクトもあります。今回のように「現場で細かな調整と素早い判断が必要だろうな」という場合、高坂さんくらい現場慣れしているカメラマンじゃないと任せられないし、逆に「高坂さんならいけるでしょう」と思ってもいるし(笑)。
それは僕もめちゃくちゃ感じています。加えて、高坂さんが得意なジャンルだからこそ、色味や画角についてもおまかせしたほうがよさそうだなと思っていました。ちなみに、高坂さんは事前にどんなイメージを持って撮影に臨まれたんですか?
「職人さんをカッコよく表現する」ための撮影方法はたくさんあると思うんですが、前回のSSSクロストークで矢野さんが言っていたように、広告的な表現になりすぎないようにという点は気にかけていましたね。「ありのままを撮影する」という意味ではなくて、ちょっとだけお化粧をしてあげるイメージ。
「そのまま撮影」するだけではただのスナップ写真になってしまう。表現にどこまで手を加えるか、それが重要。
例えば自宅の一角で作業している場合は、生活感が見えない角度を探したり、手元に強い光を当ててそこに目が行くように切り取ったり。また、蛍光灯が点いた部屋でそのまま撮影するだけではメリハリがないただのスナップ写真になってしまいます。だから蛍光灯を消してストロボで陰影をつくっていくんですけど、カッコよさを追求しようとやりすぎてしまってもダメなんですよね。最終的にはパンフレットやウェブサイトに展開するものなので、わかりやすさ、伝わりやすさも意識しなければと思っていました。
この撮影は1日に4軒をまわるスケジュールだったんだけど、最後の撮影はもう夕方で、冬の時期だったからもう太陽が沈んでしまっていたんですよね。だけど「この職人さんとこの仏具は朝日のような光のなかで見せたい」と、高坂さんがかなりがんばって光をつくってくれて、本当に朝日のなかで撮影したような仕上がりになりましたね。スタジオならまだしも、民家で。さすが高坂さんだなと思いましたよ。
この撮影に関しては正直、僕も原口さんも現場での高坂さんの作戦がうまくいくようにと立ち回ってただけなんだけど(笑)、撮影全体を振り返ったときに、実は高坂さんはどんなふうにハンドリングしてたのかを聞いてみたいですね。
もともと、限られた時間の中でどんなふうにどんな写真を押さえようかとシミュレーションするのが好きなんです。今回の撮影は、都度三脚を立てて画角を決める撮影ではなく、ライブ感というかスナップ的な要素が大きかったので、職人さんたちとのやり取りのなかで、それぞれの作業内容や見せたい部分に適した切り取り方を判断していきました。
一連の作業を1枚の写真として切り取るときに、高坂さんはどんなポイントを意識していたのか気になります。
どのシーンを、どのように切り取るのか。カメラマンのセンスの見せどころ。
職人さんの手は美しいので、正直、どこを切り取っても絵になると思っています。何十年も同じ動きを繰り返してきた所作というか、どのシーンであってもプロフェッショナルが感じられるので。
切り取り方に関して意識していたポイントでいうと、自分の好きな画角や好みというものはもちろんあるでんすけど、今回のようにパンフレットやウェブサイトに展開する前提がある場合は、使う使わないにかかわらず、同じシーンでも異なるカットを3つは押さえておこうとは思っています。例えば、少し引きの絵で状況を伝えるカット、顔に寄って真摯な表情を捉えたカット、プラス、あえて直接的ではないイメージカット、とか。
それも高坂さんを頼りたくなる点ですよね。デザインをしていて「このカットがあって助かった!」と思う瞬間があったのは一度や二度ではありません。でも逆に全部の写真がいいので、デザインしながら「このカットをこんなに小さく配置するのもったいないな…」と思うことも多々あります(笑)
できあがったパンフレットを職人のみなさんに見てもらったとき、本当にみなさんすごく喜んでくれて、それはやはり写真の力が大きかったと思いますね。
工芸に関連する業界はどこもそうなのだと思いますが、やはり仏具界隈も後継者不足が深刻な悩みなんです。冒頭で登場した「各ジャンルの仏具職人を集めて幅広いプロジェクトを牽引している方」のように、新しい需要を掘り起こそうという動きがあるものの、需要が増えたとしてもつくり手がいなければ継続していくことが難しい。そうした背景を聞いていたので、このプロジェクトを提案したとき、まずは職人さんたちが自分の仕事に誇りを持ってもらい、それを発信することで後継者不足問題に貢献できればとの思いもありました。
じゃあこのプロジェクトによってそれが解決できたかっていうと、正直そこまではやりきれなかったという点が自分のなかで心残りではあるんですけど、撮影に協力してくれた職人さんたちが喜んでくれて、「自分たちの仕事に誇りが持てた」という生の声を聞けたのは本当にうれしかったですね。現在も、国内外へのPR時に本プロジェクトで手掛けたパンフレットや写真を使ってくれているそうで、ありがたいです。
完成したパンフレットは、現在もさまざまな場所で活用いただいている。
もちろん職人さんたち自身は今までも仕事への自信を持っていたと思うんですけど、このプロジェクトを機に、改めて自分たちの仕事のカッコよさを知ってもらえたのではないかと思います。当初、作品ができるまでの裏側やプロセスを撮らせてほしいとお願いしたときはみなさん「俺なんて撮らなくていいよー」という反応だったんですけど、撮影が始まると楽しそうに協力してくれる方たちばかりで、それもいい思い出です。
この案件に限らず、働いているひとの撮影で実現したいことが「誇りを持ってほしい」なので、そうした声を聞けるのは本当にうれしいです。
僕も原口さんもね、いろいろなカメラマンと仕事をしてきたからこそ高坂さんの現場力の高さのありがたさがわかるというか。本人はあまり口にしないけれど、このプロジェクトも本当はかなり苦労したと思いますよ。
いや、工夫はしましたけど苦労はしてないですね(笑)
さすがです(笑)